004 雨  (もぞ)

遠くで雷鳴が聞こえる。

公園のベンチに座る壬生屋は目の前で立ちつくしている男を遠慮がちに見上げていた。
先程まで彼女に対する非難ばかりが紡がれていた唇も、今では固く閉じられている。
こんな時の雰囲気が苦手な壬生屋は、うまく言葉をかけてあげられない。
ただ。
あぁ、そろそろ雨が降ってくるのに・・・と。
二人とも傘を持ち合わせてはいないのに・・・と。
それだけを思って見上げていた。

立ちつくしていた瀬戸口は目の前の女が不安そうに見つめていることに気付いた。
先程まで固く閉じられていた彼女の唇が、今では言葉を探そうと震えている。
紡ぎ出される言葉を待ち望む瀬戸口は、声だけを聞き逃すまいと目を閉じる。
ただ。
あぁ、そろそろ雨が降ってくるな・・・と。
二人濡れるのも悪くはないな・・・と。
それだけを思って立ちつくしていた。

言葉を探すことを諦めた壬生屋は、じっと瀬戸口を見つめた。
目が閉じられていることを確認して、ゆっくりと手を伸ばす。
ほっそりとした指先がためらいがちに彼の両頬に触れる。
瀬戸口の身体に緊張が走るのを、鈍感な壬生屋の心が感じ取る。
それでも嫌がられてはいないと信じて、彼の頭をゆっくりと自分の肩に押し当てた。

言葉を待っていた瀬戸口は、思わぬ壬生屋の行動に驚きを隠せない。
それでも彼女の穏やかな呼吸を感じて、ゆっくりと抱きしめる。
自分の唇を彼女の白い首筋にそっと寄せる。
壬生屋の身体に緊張が走るのを楽しみながらも、瀬戸口の心はひどく痛んだ。
彼女を罵倒したのは俺だというのに、こんなにも許されて良いものなのか・・・?

己に対する嫌悪感が瀬戸口を支配する。
こんな堂々巡りの不器用な感情に振り回されることなんか生涯こないと思っていたのに。
瀬戸口は身体を引き離すと曖昧に微笑んで壬生屋を見た。
壬生屋は己の首筋に手をあてて、ただ瀬戸口を見つめている。
彼が笑えていないことなど、彼女にさえも分かってしまう。

近くで雷鳴が轟く。

もうすぐ雨が降ってくる・・・。