――暗くならないうちに帰ろうか、未央。
昔の、生きていた頃の兄の夢を見るのは久しぶりだった。
瞼を開ければ、ぼんやりと浮かぶコンソールの青い光。
目の奥に違和感を感じて、壬生屋は何度か瞬きをした。
喉の渇きに吐き気を覚え唾を飲み込むと、苦い味が口の中に広がる。
次第に意識が働きだす。
午後2時過ぎ。
あの夜もこんな風に多目的結晶で時間を確かめた。
・・・自分は、
まだ、ここから一歩も動けていないのだ。
泣き疲れて眠って・・・、何も出来ずに大切な人を失ったあの頃と、私は何も変わっていないのだわ。
深く息を吐いて、壬生屋は身を起こした。幸い近くに人の気配はないようだ。
いつまでも篭っていては、誰かが来てしまう。
泣き腫らした目を曝すわけにはいかない。
士魂号からのろのろと身体を引き出し、階段へ向かう。
上段で空の明るさに慣れない目を下に逸らした壬生屋は、己のタイミングの悪さを呪った。
視線の先には、瀬戸口とののみがいた。
指揮車の向こう側だからこちらには気付かれないだろう。
なのに、動けない。
走り出したい衝動と、聞こえるはずのない距離の声を拾おうとしている自分。
つきつきとこめかみが痛み出す。
立っていられなくて壁に寄りかかるようにして後ずさった壬生屋の角度から、皮肉にも瀬戸口の表情がよく見えた。
壬生屋は詰まりそうになる息を浅く吐き出しながら、目を閉じた。
無意識に手が胸元を押さえる。
これもまた、私の浅はかな思い違いなのでしょうか?
胸の奥を締め付ける塊と湧き上がるもの。
ずっと、何処から来ているのだろうと思っていた。
唯一人の人が持つには重過ぎる慟哭。
――泣けない誰かの涙を引き受けるために。
兄さま。
私は今、泣くことしかできません。
あの人はいつからあんな目をしていたのかしら、私は何を見ていたの?