チリチリと熱を持った痛みを手首に感じながら、士翼号のコクピットの中に閉じ籠もる。
軍規違反は承知の上。
一人きりになれる場所がここしか思い当たらなかった。
焼け焦げて穴の開いた袴の裾を繕いながら、出るのは涙とため息ばかり。
早朝の出来事がどうにも整理できなくて、私の気は乱れたままだ。
嫌われていると分かっていても、声をかけずにはいられなかった。
どぶ川べりの橋のたもとにいた彼は顔を覆って泣いていた。
「あの…」
どうせ逃げられてしまうのに、私は彼を見捨てられない。
私の胸の内を知ってか知らずか。
彼は私を見返して、煙草を持つ手で涙を拭った。
「悪趣味だな、あんた」
そう、この言葉こそがあなたという人間だ。
「…私は…」
予想通りの反応とはいえ、私の胸はズキリと痛む。
「…し、始業前に仕事をするのは当然のことですからっ」
「………」
「だからっ、こんな早くに家を出て…そのっ…」
「………」
「別に、あなたと会ったのは偶然で、そう、偶然でしかなくって…!」
事実でありながらも聞き苦しい言い訳は、彼の行動によって止められた。
彼の手がしっかりと手首を掴んでいる。
食い込んでいく彼の爪が、私の肌を傷つける。
「偶然?」
思わず頷く私を、彼はぎゅっと抱きしめた。
「俺は壬生屋を待ってたよ」
動揺した心がすぅっと醒めていくのに私は気付いた。
嘘だ、ということはすぐに分かった。
分かってもなお、その嘘に縋り付きたい自分に気付いた。
彼の欠落感は本物だ。
今なら、こんな私でも、彼の支えになれるかもしれない…
己の感情があまりに情けなくて気落ちする。
彼の首筋に額を押しつけると甘い香りがした。
煙草の香りと甘い香りが混ざり合い、そこには私の知らない世界が見えた。
慌てて身体を離そうとするけれど、彼はその手を緩めようとはしなかった。
離れたくない、でも離れなければ…
私の右手はすばやく左腰へと移動する。
そして、私は、私たちは………
こんなはずではなかった。
瞬時に突きつけたのは抜き身の刀。
思わずよけた彼の手から火のついた煙草が放られる。
それは私の袴に当たり、私はそのまま逃げ出した。
こんなはずではなかった。
最後に見た彼は何故か優しく笑っていたのに。
抜刀するという禁をどうして自分は犯してしまったのか。
考えても答えは見えず、私はまた涙にくれる。