098 タリナイ  (もぞ)

(微エロ描写含)

目を覚ますと、甘美な空気が漂っている。
見慣れた自分の部屋。
狭い四畳半に広がる一枚の布団。
そこに横たわるのは寝息をたてる愛しい少女。
速水はしばし逡巡し、もう一度、彼女の首筋に唇を押し当てた。

滑らかな肌が再び欲情を誘い出す。
一方的な愛撫は全くと言っていいほど彼女には伝わらず、自己満足の固まりとなって彼の全てを支配する。
「好きだよ、好きなんだ」
言い訳をするように呟いて、彼女の中に入ろうと身を起こす。
拙速であることを知りつつも、己の焦りは消えることなく。
「ごめん…」
その詫びも所詮は口先だけのことだと自覚しつつ。
力を込め身を沈めると、ようやく彼女が目を覚ました。

「…なにを…」
喘ぐような声で彼女は問いかける。
速水は困ったような顔をして彼女の唇をそっと塞いだ。
「好きなんだ」
熱い吐息を落としながら囁く。
「どうしたらいい?」
「…どうするもなにも…」
琥珀色の瞳を揺らめかせ、彼女は眉根を寄せた。
複雑な感情を理解出来ない彼女は、速水の言っている意味が分からない。
「…現在進行形で…その…しているではないか…」
直接的な表現を恥じ入るように少女は呟く。
「うん…気持ちいいね」
「…たわけ…」
あとは浅く短い呼吸をするだけで精一杯なのか、少女はキュッと目を閉じた。

そんな彼女を見下ろしながら、速水の表情は苦悩のそれに変わっていた。
初めて出逢ったとき、やっかいな少女だと思っていた。
話していくうちに、彼女は自分のヒーローだと確信した。
彼女の下僕として一生を全うしたい、それだけを願っていた。
それが。
誰にも彼女の心を奪われたくないというエゴで、屋上にて告白するに至り。
そして。
本来なら触れていいはずもない彼女に、恋人という名前を盾にして、自分は欲望をぶちまけてしまっている。

こんなことが許されていいはずがない。
少女を抱くたびに速水はいつも思っていた。
しかも、コントロール出来ない心の発露によって、彼女には毎日のように「身体が痛い…」と呟かせてしまっている。
「好きなんだ、何をしても気持ちが収まらないんだ…どこまでも、どこまでも欲しくなって仕方がないんだ…」
心が欲望に支配される。

タリナイ、タリナイ、タリナイ――

その甘美な恐怖にどうしても打ち勝つことが出来ず、速水は少女の身体を固く抱きしめた。