戦況は人類側の劣勢である。
今日も戦闘があり、当たり前のように壬生屋機が破損した。
善行からすれば壬生屋の戦術上仕方のない損壊であった。
壬生屋の資質もあるけれど、彼女を特攻させるのは善行の戦略でもあったのだから。
彼女が斬り込んでいかなければ、3番機を戦略上のポイントに送り込めないからだ。
瀬戸口が冷めた目をして小隊長室に入ってきた。
「女は怖いねぇ」
報告書を机の上に投げ出しながら、善行を見下ろしている。
居心地の悪さを感じながらも司令の威厳のために作業の手を休めずに問い返す。
「何のことでしょう」
「委員長が手の内を晒さない為に傷つく女がいるという話だよ」
「…壬生屋さんには嫌な役回りを押しつけてしまって申し訳ないと思ってますよ」
瀬戸口が黙り込むように「壬生屋」という部分を強調する。
それは確かに効果があったようで、会話がしばし途切れた。
「壬生屋は…」
瀬戸口は大きくため息をつく。
「壬生屋のことは大丈夫ですよ」
「それは大した自信ですね」
「俺が言いたいのは原主任のことだしな」
予想どおりの名前が挙がる。
善行はさして動揺することもなかった。
その態度が気に入らないのか瀬戸口は眉をひそめた。
「せめて原主任には委員長の頭の中にある戦術プランを教えるべきじゃないのか?」
「それは壬生屋さんを守るための瀬戸口君の希望でしょうか」
「希望なんか出さなくても壬生屋のことを守りたい奴はたくさんいる」
どこか棘を含む瀬戸口の言葉に善行は顔をあげた。
「それに主任は壬生屋のことを分かってる。あの人があんたの…委員長の仕事に関して足を引っ張るような真似をしないことは知ってのとおりさ」
それは初耳ですねぇ、と言おうとして、善行は口をつぐむ。
瀬戸口の目が真剣な色を帯びていることに気付いてしまったのだ。
「だが主任は壬生屋の特攻の理由があんたの戦術だとまでは思ってない。主任はテクノとラインの不調和音を解消しようと壬生屋を庇うが、実際の所は逆効果になっている。手の駒が少ない彼女にこれ以上の負担を強いるなよ」
「情報量が少なくても仕事を円滑にまわすのが彼女の仕事でしょう。負担と言いますが、それは彼女の仕事から派生するものに過ぎない」
「仕事の名前を借りてあんたは彼女を傷付けてる」
「彼女が勝手に傷付いているだけでしょう」
堂々巡りの会話。
お互いに埒が明かないことを悟りながら、落としどころを探り合う。
「…まぁ、いいや。あんたが傷付け俺が癒す、それでいいだろう」
瀬戸口は肩をすくめ踵をかえした。
「彼女の支えになりたい男はたくさんいるさ。あんたは戦争だけを、正義だけを見ていればいい」
「それはありがたい。では主任のことは頼みましたよ。私も大切な壬生屋さんに嫌な思いをさせないように、戦争屋として出来うる限りのフォローをします」
ドアの手前で瀬戸口の動きが止まる。
「あなたも大事なパイロットの心をかき乱すような真似は自制してくださいね」
「…お互い様だな」
「あなたとは違いますよ」
大きな音とともにドアが閉じられた。
…してやった、のでしょうかね。
ふぅ、と大きく息をつく。
それにしても瀬戸口があれ程までに原を観察していたことを善行は知らなかった。
「いえ、彼は壬生屋さんが一番のはずですし…まさか…」
自然と眼鏡に手をやる。
その仕草に自分で気付き思わず苦笑する。
「僕も動揺してるという訳か…」
かつての恋人の名前を唇の動きだけで呟き、善行は伸びをするために立ち上がった。