(瀬戸壬生前提の瀬戸口×女)
彼女が囁く愛の言葉は、まるで呪詛のようでもあった。
喘ぎながら空に放たれた両の手は冷たく俺の背へと絡みつく。
その感覚が気持ち悪くて、俺は彼女を組み敷いた。
自由を奪われてもなお嬌声をあげる彼女はどこか空虚で薄ら寒く、かえって感情の希薄さを露呈する。
閉じられているまぶたの裏に映っているのは俺じゃない。
ふとした瞬間に見える瞳はゾッとするほど醒めていて、やるせない気持ちにさせられた。
あの男に対する執着だけを見せつけながら、ただ彼女は快楽という名の時間を潰す。
「あなただけよ」
――あぁ、そうだろう。
あの男に向けられた言葉だと、分かってしまう自分を嗤う。
忘れられない人がいながら不埒な遊戯を楽しんでいたのは俺も同じことなのだから。
昔から…。
心なんてどうでもよくて、思えば身体もどうでもよかった。
口先だけは愛を語り、態度だけは全てを貪る。
彼女はそんな人の心を玩ぶ俺へとつかわされた愛のない快楽人形。
人形に愛は残っていなかった。
空の彼女を抱く俺も、もう愛なんて信じていない。
通い合わないやりとりに失望しながら、このまま朽ちていきたいと切に願うばかりの存在…
重い足取りで帰路につく。
怒りにも似た感情を持て余しながら、俺は煙草に火を付ける。
インクと泥の香りが漂う代用煙草。
あまりの不味さに顔を顰める。
それでも無いよりはマシ――そう、それはまるで彼女と同じ。
不愉快になるからといって、今更手放す気にもなれない。
どぶ川べりの橋に背をもたれかけ、紫煙の行方を目で追いかける。
このまま失望に飼い慣らされて痛みも自分の一部だと誤魔化していければ、俺は幸せになれるだろうか。
空虚さも渇きも甘美な蜜になるというなら…
それでいい。
それがいい。
俺は貴女を待ち続けるけど、期待に狂わされずにすむだろうから。
もしも、俺に最期の日がやってきても、もはや貴女を待てないことに苦痛を感じたりもしないだろう。
そう考えて俺は泣いた。
結局俺は。
信じていないと言いながら、愛がなくては生きてはいけない。
快楽と引き替えに手に入れてしまった真理の残酷さに耐えられず、俺は手のひらで顔を覆った。
「あの…」
彼女でもあの人でもない声がする。
両の指の間から見える赤に俺の鼓動は高鳴った。