(善原前提の男×原)
大きな音を立てて、これみよがしに戸を閉めた。
無骨で不器用な男の手・・・その感覚がまだ首筋に背中に残っている。
戸の向こうで、あの男は、大きな体を小さく屈め呆然としていることだろう。
容易に想像できるその姿に苛立ちはつのるばかりだ。
なぜ。
あの男はこうも簡単に身を引いてしまうのか。
私がイヤだと言っただけで劣情を抑え込めるのか。
駆け引きの出来ない男は何故もこうも私をしらけた気分にさせるのだろう。
そして思い出すのは不実な男。
丁寧な物言いにオスの本性を隠した男。
あぁ、あれは良かった。
いつも私が望むことをしてくれた。
偽りの拒否も強がりも、すべてを分かって動いてくれた。
上目がちに見つめれば、どんなワガママも受け入れてくれた。
それでいて。
見た目以上に強引で、自分勝手な愛しい男。
あれは私の全てであった。
私はあれの全てになり得なかった。
戸の向こうの男とかつての自分が重なる。
不器用で惨めな存在。
心を掻き乱されるしか能のない生き方。
相手を想う強さが何よりも尊いと盲目に信じる態度。
………そして気付く。
恋をするってそういうこと。
相手を一途に想うこと。
あの頃、あれが全てであった頃、涙の夜も虚しい朝もそれでも私は幸せだった。
そして思う。
私があれを思い出すのは目の前の男が一生懸命で美しいからなのだと。
駆け引きの出来ない男を私は想像以上に愛しているのに違いない。
いたずらを見つかった後のように、そっと戸を開ける。
男は想像通りの姿で佇んでいる。
私をいつまで待たせるつもり? 早く入りなさいよ
自分勝手な物言いで照れを隠しながら、私は男の手を取った。