『出逢う季節』  (サホ)

「前は今の季節が嫌いだったんです」

はらはらと舞い散る桜の花びらをその手に受け止め、不意に壬生屋がそう言った。

「春は出逢いの季節といいますけど、私には別れの季節でしかないように思えたから…。昔は毎年、兄と桜並木を一緒に眺めていたんです。けれど、その兄はもういない。私の隣は風に散る桜ばかりが吹き抜けて…。それが淋しくて、いろんな草花が芽吹いても、私にはどうしても、この桜と同じに、散りゆくだけの哀しい季節に思えてしまって……」

愛おしげにそっと花びらを撫でながら彼女は続ける。

「…でも、別れもあるけれど、ちゃんと出逢いもあって…。やっぱり、春は様々な息吹に満ちる季節ですね。あなたもこの季節に生まれて下さいましたし。こんな素敵な時に、あなたの誕生日もお祝い出来るだなんて、とても贅沢なことですよね」

その表情こそ咲き誇る花のように、壬生屋は隣に立つ青年に微笑む。

「こうして、時はめぐってゆくことを、あなたに出逢えて、ようやく思い出すことが出来ました。桜はこうして散ってしまいますけど、また来年、出逢えるんですよね。…来年も再来年も、あなたと一緒にこの景色を眺めていられたら――」
「あとたった二回なのか? 俺はその先もずっと、たとえお嬢さんが嫌がっても、攫ってでも一緒に花見したいと思ってるんだけどな――だからさ、俺以外の男にはもう出逢うなよ」
「それは私のセリフです。…ふふ、では、これから先も二人で春の景色に出合いましょう。約束ですよ? …ああ、いけない! そろそろ帰らないと、皆さん、今日の主役の登場に待ちくたびれていらっしゃいますね」
「あ、おい、待ってくれよ。ほら、俺、そんな走れる体力ないしさ」
「何を怠けたことを仰ってるんです。せっかくのご馳走も冷めてしまいますよ」

そして、二人は手を取り合い、桜吹雪の中を駆け抜けた。