『Mistletoe -2nd』  (サホ)

壬生屋、と手招きされ、彼女は瀬戸口の傍へと歩み寄った。

「どうかなさいました?」
「これ、何か知ってるか?」
と、彼は彼女の頭上を指差した。
「リースと似たようなものでしょうか? ふふ、可愛らしいですね」
小枝で作られた丸い飾りを、壬生屋は柔らかな顔で見上げる。
「実はさ、この下に立つお嬢さんとは誰とでもキスしていいって慣わしがあるそうだ」
「な…っ!」
その一言に、壬生屋はそれまでの表情を一変させた。
「何ですか、それは! 騙したのですね!?」
「騙したなんて人聞きの悪いこと言わないでくれよ? 今、もしも、ここに別の誰かが立ったとして、何もせず、その子を無視するも可哀想だろう? ずっと、ここに壬生屋が居てくれたら、そんな不幸な状況も回避出来ると思っただけなんだが」
「は、破廉恥な! そのような詭弁で人を嵌めようとは不潔ですっ! 許しませんよっ!!」
「まぁ、そう怒るなよ。本題はここからなんだ」
「そのような世迷言はもう結構です。そこをお退きなさい!」
素気無く言い切るも、しかし、瀬戸口に引き下がる気配はない。
「そういうわけにはいかないさ。そのキスの申し出を拒否すると、そのお嬢さんは次の年、結婚のチャンスを失くしてしまうらしいんだ」
「え…っ」

思わず息を呑む壬生屋。
髪を膨らすほどの怒りも、どこへ向けていいのやら分からなくなる。

それは思いも寄らぬ話だった。
そして、彼は知っている。行き遅れることへの危惧の念を持つ自分を。

「俺としても、なるべく早くに可愛い奥さんがほしいところだしさ――断ったりしないでくれるよな?」

自分を見つめる紫の瞳が甘く揺れる。
瀬戸口のその眼差しに、壬生屋は完全に逃げ道を失ったことを悟った。

彼との距離は、ゆっくりと詰められる。

どうすれば良いのだろう。
しかし、彼女に考える猶予はもう残されてはいない。

最後の間合い――そこで壬生屋は腹を括った。

「…――覚悟っ!」

電光石火の早業で瀬戸口の襟元を掴む――正しくは、組んだ。
かくなる上はこうする他はない。
彼女がこの場を切り抜けるには、もはや、正面からの強行突破以外に術はなかった。

「えっ」

拍子の外れた情けない声とともに、呆気ないほど簡単に青年の身体が傾く。

そして――それは、一瞬のことだった。

「――え…?」

次にそう呟かれた時には、既に彼の身は突き飛ばされた後だった。
そのまま投げてしまわんばかりの勢いだったのだが、実際はその程度で止められていた。

信じられないものを見るように、瀬戸口はまじまじと彼女を凝視する。

「……せ、先手必勝です」

彼が唖然とする理由は、他でもない、自分が一番よく知っている。

「…約束ですよ。ちゃんと責任は取って下さいましね」

蚊の鳴くような声で壬生屋は絞り出す。
その顔は、見ていて気の毒なほど朱に染まっていた。

「――参りました」
苦笑交じりに瀬戸口は言った。
「見事な特攻っぷり、だな。さすがの俺も瞬殺されたよ。まぁ、俺としては、もっとしっかりと実感していたいところだが。それに、これじゃあ、周りに誤解されてそうだ」
「それは…! そういうことは、二人だけが分かっていれば良いことですっ」

逃れられないと観念した壬生屋だったが、彼の罠に甘んじてしまっては、間違いなく、いい見世物になってしまう。
ならばと、速攻で自爆攻撃を仕掛けることにより、被害を最小限に食い止める作戦に打って出たのである。

「それもそうか。おまえのとっておきの顔を、他の野郎に見せてやるのも勿体ないもんな」
「笑いごとじゃありません! と、とにかく、もう行きますよ! 他の方に義理立て出来る資格も、あなたにはもうないのですから」
言いながら、壬生屋は彼の腕を手荒く引っ張る。
「はいはい。お嬢さんの…いや、未来の奥さんの仰せのままに」