イベント好きな級友らが開いてくれた誕生会を抜け出し、満開の桜越しにどこまでも青い空をぼんやりと眺める。
誕生日など、この自分には然したる意味を持たない――持てないもののように感じながらも、こうして祝って貰えることは、やはり嬉しいものだった。
それなのに。
何かが足りないと思う自分に気付いてしまう。
それだけで、もう十分であるべきところを、これ以上、何を欲しがるというのか。
その答えは、出す前に、向こうからやって来た。
「…こんなところで今日の主役が何を?」
僅かに表情を乱すのもほんの刹那のこと。
すぐに凛とした表情を作って立て直してくる辺りが、らしくて、少し可笑しい。
「いや、ちょっと外の空気でも吸おうかな、と」
「そうですか」
「――なぁ」
そのまま、あっさり通り過ぎようとした彼女を背後から呼び止める。
「俺、まだ、お前さんからは祝いの言葉ひとつ貰ってないよな」
それは疑問形を装った断定。
「え?」
案の定、怪訝な顔で振り返る彼女。
「それなら先程…」
「皆と一緒に、じゃなくてさ。壬生屋だけなんだがな。個人的に何も言ってくれてないのは」
「――あ…。そ、そうでしたね。申し訳ありません」
その指摘に、微かに頬を赤らめ、壬生屋は素直に頭を下げた。
「遅くなりましたけど、お誕生日おめでとうございます」
そうして、あんまり柔らかく微笑んでみせるから――
「…っ!」
お決まりの台詞で突き飛ばされでもするかと思いきや。
可愛いなとも可哀想だなとも思えるほどに身を固まらせ、ただ絶句するに止まる壬生屋。
引き寄せた彼女の腕を更にしっかり捕らえ、その首筋に顔を埋めるようにしてささやく。
「――もう一回」
「な…っ?」
豊かな黒髪の淡い薫りが心地良いな、などと、彼女の困惑ぶりも無視して、つい暢気に思う。
「今のもう一回」
「えっ? …あ、あの、お誕生日おめでとうございます…」
「もう一回言ってくれよ」
「ええっ? えっと、じゃあ、ハッピーバースデー…?」
律儀に、しかも、そうやってわざわざ言い換えてくる、その心配りが堪らない。
「もっと」
「……何のつもりですか」
「酷いな。いいだろう? それくらいのプレゼントを呉れたって」
そう、いつもとは違う言葉を聴いてみたかった。
非難ではなく、そんな祝福の言葉を――ここにいる意味を、他でもない彼女から寿いでもらいたかった。
「――酷いのはどちらです?」
ようやく、この腕を振り解くと、壬生屋は射るような目を向ける。
「わたくしがあなたのお誕生日を嬉しく思う理由までは貰ってはくれないのでしょう?」
そう言い置き、紅い袴を翻す壬生屋。
今度こそ、ただ黙って見送ることしか出来ない。
「――酷い、か」
見えなくなったその後ろ姿に独り言ちる。
「そう、だよなぁ…」
さすがに都合の良いことを言っている自覚がないわけではない。
貰ってはくれないのでしょう、と。
そう言った声が、震えそうになるのを押し殺したものだということも知っている。
拘り、縛られ、応えられずにいながら、今日という日に甘える身勝手さ。
それでも。
どんなに可愛い娘よりも。
あの懐かしい記憶さえも。
あいつの言葉ほど、心を騒がせるものは他になく。
――それとも。
今日という日なら。
もっと、我侭になっても許されるだろうか。
これから、一番欲しいものを貰いに行くことも。
「どうしたものかな…」
それはもう解り切ったこと。
それでも、そう訊くように、風にそよぐ花をただただ見上げた。