時々不意に、手を伸ばして触れたくなる。
昼休み、プレハブ校舎の屋上に二人並んで座っていた。
会話が途切れて、厚志の顔を見ていたら急にそんなことを思ってしまった。
自分にはない、ふわふわとした雰囲気。
ぽわっとした柔和な笑顔。
同じ年頃と背格好なのに、自分と厚志とでこんなに持っているものが違うのかと不思議に思う。
性別が同じだったらどうだろうと考え――、いや、ありえないことだと頭を振る。
というより、あって欲しくない。
ああ、でもその逆、性別が反対だったらどうだろう。
私が男で、厚志が女だったら。
「ん?何、舞?」
例えば、こうやって指で頬に触れる。
厚志はいつも私にどういう気持ちで触れているのだろう。
今、私が思っていることと同じ、だろうか。
「舞?ちょっと」
唇に触れてみる。
やっぱりやわらかい。
だが、この間のようなことを、時々仕掛けてくるのには参る。
心の準備とかそれ以前の問題だ。
いくら芝村でも、さすがにああいう行為は人目を気にする。
「了承を得てからにせよ」
と、常々言っているのだが、いつもそういうときは決まって笑顔で誤魔化される。
ん?ひょっとして私は、厚志から組みし易いと思われているのか?
だとしたら、それは由々しき事態だ。
「舞。目が怖くなってるんだけど。
何か、言いたいことあるなら、黙ってないでちゃんと言ってよ」
どの口が、と思う。
言いたいことは、その都度言っている。
それを聞かずに、好き放題するのは厚志の方だろう。
いや、それを許している不甲斐ない私自身をまずどうにかすべきか。
恋愛関係は最初が肝心と壬生屋も言っていた。
そうだ。
今まで受け身に甘んじていたが、これからは違うと宣言しよう。
これは、私が私に課す挑戦だ。
芝村はどんな挑戦でも受ける。
フフフフフ
笑いが漏れた。
厚志が驚いたように目をぱちくりとさせる。
う、おのれ、その表情は反則だろう。
だがしかし、私はもう落ちないぞ。
「せいぜい、己の全ての力をもって、私を篭絡しにかかるがいい。
私はその隙を衝くだけだ。
いままでそなたが私にそうしてきたようにな!」
立ち上がって高らかに宣言する。
厚志が呆気にとられたような顔で私を見上げる。
だが、次の瞬間にはもう笑顔で、「ああ、そういうこと」などと呟いていた。
ぬ、立ち直りがなかなか早いな。さすが一筋縄ではいかないらしい。
しかし、ここが私の今までと違うところだ。そんなことでは動揺などしない。
ふふふ、悠長に構えていられるのも今のうちだけだぞ。
この宣言から私の怒涛の攻撃が始まるのだ。覚悟しろ。
私は、厚志の笑顔と対抗するように、腕を組み不敵な笑いを浮かべた。
厚志はそこでようやく立ち上がると、
「それじゃ、遠慮はいらないってことだね」
言うなり、私を肩に担ぎ上げた。腰を片手でがっちりホールドされる。
「何をする!!」
私は厚志の背中に向かって怒鳴る。
「うん。お姫様抱っこだと安定悪いから。暴れられると困るじゃない?」
「そういうことを聞いているのではない!」
「あー、楽しみだなぁ。舞がどんな隙を衝いてくれるのか。
僕もがんばらなくちゃね」
のほほんと空恐ろしいセリフが返ってきた。
今まで厚志にされてきた事が走馬灯のように頭の中を駆け巡る。
あれ以上のことをされたら、どうなるか。
蒼白になって声を荒げる。
「人の話を聞け!」
「これ以上なく聞いてると思うんだけど」
この白々しさ、いっそ天晴れと言うべきか。
どなっている頭の隅で思う。
ああ、年齢とか、男が女がとかいう問題ではなかった。
速水厚志という人物はいつだってこうなのだ。
きっと何があっても笑ってすんなり事を収めてしまう。
そういう清清しさに、私は魅かれたのか。
だったらもう、覚悟を決めてとことんまで付き合うしかない。
「好きにするがいい。
・・・・どうせ、最後には殴らせてくれるのだろう?」
背中を叩いていた手を止めて、聴こえるか聴こえないかの声で呟く。
厚志はそれを聞き逃さず、私を一度地面に降ろすと、今度こそ横抱きに抱き上げた。
目が合う。
厚志は花の蕾がほころぶ様に笑った。
私も笑う。
いいだろう。まだ、諦めたわけではない。
私は私の出来得る限りの力で対抗しよう。
(あとがき)
もぐちび様に捧げます。
舞×速です。えーと、宣言CP通りかは、かなり微妙ですが・・・(滝汗)