『Mistletoe -1st』  (サホ)

「ね、舞、そこに立ってみてよ」
「そこ?」
速水からのその提案の意図に気付き、舞は得意気な顔をして言い放った。
「そのようなところに立てるはずがなかろう。常の如く、易々と騙せると思うのは大きな間違いだぞ、厚志」

そう、彼女は知っていたのだ。
その頭上に宿り木が飾られていることを。

クリスマスという行事を存分に楽しむため、舞は芝村らしく事前学習を怠らなかったのである。その収集したデータの中には宿り木に纏わる習慣も含まれていたのだ。
諸説あるようだが、概して、宿り木の下に立つ者にはキスすることが許される――というようなものであると。

「僕は立てるよ?」
あっさり宿り木の真下に立つ速水に、舞は満面朱をそそいだ。
「な…っ! そのようなことは許さぬ。今すぐ退くが良い! 退かぬというのならば力尽くで引き摺ってやるまでのこと」
言い終わらぬうちに実行に移す辺りが如何にも芝村らしいかもしれない。
そして、実際、結構な仕打ちに遭っているにも関わらず、それを全く痛い目と思わぬところが、これまた速水たる所以と言えるのだろう。
「舞はほんとに照れ屋さんだねぇ」
彼女自らその行為に出ることはないが、かといって、他の誰かにそれを許してやれるはずもないのだ。
「うーん、ここの方が恥ずかしくないと思ったんだけどな。まぁ、そういうところが舞の可愛いところだけど」
「は? 何を申すか」
「別に僕はどこでもいいんだけどね。うん。例えば、ここでも」

――しばしの後。

「――な、なな、な、こ、公衆の面前で何をするか、貴様は!」

突き飛ばすような形で速水を押し遣り、先程とは比較にもならぬほど舞は激憤する。

「だって、舞からのプレゼントなら、いくつでも貰いたいから」
「い、今のは私がくれてやったわけではなかろうっ」
彼女には、そのような詭弁は断じて認められぬものであった。
正しくは「奪われた」というべきであるはずだ。
「それはほら、舞がなかなか渡してくれないから、僕から貰いに行っただけだよ」
「臆面もなく言うなっ!」
「そんなに怒らないでよ、ね? ちゃんと僕からもあげるから」
「いら――っ」

頼んだわけでもないのに、またひとつ、くちびるに落とされる。
否、落とすどころでは済まされない、実に濃厚なものがしっかりと。

「…――お、おのれ、またしても、奪ったなっ!」
「奪っただなんてひどいなぁ。舞は僕からのプレゼントを受け取ってくれないの?」
「…っ!」
人畜無害な、そのぽややんとした笑顔こそが、何より厄介な食わせ物だと身を以って熟知している。
知っていて、結局、どうすることも出来ないのが憤懣遣るかたない。
しかも、誰もが恐怖に慄くほど憤って見せたところで、当の本人は至って平然として笑っているのだ。あまつさえ、「やっぱり舞は可愛いなぁ」などと暢気に零しながら。

これが他の者ならば、己の矜持に懸けて必ずやその報復を遂げたであろう。たとえ、それが絢爛舞踏だとしても。
今や人外の存在になったからではない。彼がこの世でたった一人のカダヤだからこそ、彼女にその怒りを発散させる術は永遠に見出せないのである。

そうして、また呆気なく、彼の罠に陥るのであった。