『想いの軌跡』  (にら)

小さな鳥居が連なり続く参道。
鳥居の高さは精一杯に伸ばせば手が付く程度。
ふと見れば、その朱も所々が剥げてどこか頼りない。

それでも舞は力強く笑って言った。
「石を投げ上げてみろ。上にのったら願いが叶うそうだ」

鳥居の梁(はり)を指すと舞は視線を下げ、自分と手を繋ぐ少年を見る。

夏の強い日差しに透ける少年の髪は青い。舞の声に見上げた瞳も澄んだ深い青色。
黙っていると冷たい陶器を思わせるその白い頬は、舞と視線が合うと僅かに血の気が差して、やわらかい表情になった。

「俺はいいよ。舞が投げて、俺のかわりに」
変声期前らしい声が応える。

神はそれほど多くを救う手を持っているわけじゃない。
そして――、俺は神の手は取らない。

少年は心の内などまったく覗かせない微笑みを舞に向けた。

「い、いや。私はよいのだ。うむ」
とたんに舞が顔を赤くして、慌てたように目を逸らす。

その様子に小首を傾げて何事か思った少年は、舞の手を引いて道を外れた。
適当な石を探して屈む。

拾った石は何の変哲も無い鉄色だったが、少年が息を吹きかけるとしっとりとした湿りを帯びた深い色合いになった。

それを舞の手の平にのせると、自分の手で包み込むように握らせる。
重ね合わせた手に額をつけ、少年は祈りを捧げるように目を閉じた。

「キィ・・・?」
愛称を呼ぶと、少年は顔を上げてにっこり笑う。

「投げて、舞。二人分の想いをこめれば、きっと願いが叶うよ」

少年の明るい声に、舞は顔を綻ばせる。
一つ深呼吸すると鳥居に向き直り、慎重に狙いを定めた。

その横顔に、照りつける太陽に負けない純粋な意志がある。

少年は目を細めて真っ直ぐに彼女を見つめた。

「はずしても大丈夫。のるまで粘ろう!」

その度に自分は石を探して彼女に手渡すだろう。

自分には何の気遣いもいらない。ただ隣にいられればいい。
側に在って、何よりも他の誰かを尊重する彼女を守りたい。

ねえ、舞。
俺はね。舞のどんな小さな願いも聞き逃さない自信があるよ。

空になだらかな弧をえがく石。
その軌跡は世界にとって何程のものではないけれど。

その小さな石に宿るのは、明日へ繋がる確かな想い。

***

あとがき。
大捏造です。
キイと舞姫。
石を投げたかったのですね、舞姫。
そんな何でもないお話なのです。